黒猫はなぜ魔女の使い魔になった?魔女裁判と歴史から読み解く

黒猫がなぜ魔女の使い魔として描かれるようになったのかを、魔女裁判やヨーロッパの歴史から探るENrich研究所のアイキャッチ画像。中世ヨーロッパ風の街並みを背景に、黒猫、古書、薬草、古い文献を描き、魔女と黒猫のイメージが形成された歴史を表現している。 Uncategorized

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魔女の隣に描かれる動物といえば、黒猫を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

絵本や映画、ハロウィンの飾りでも、黒猫は魔女のそばに描かれていることが多いと思います。けれど、実際の歴史をたどると、魔女の使い魔は黒猫だけではありませんでした。

記録には白い斑点のある猫、犬、ヒキガエル、鼠、鳥など、さまざまな動物が登場します。

それでは、なぜ多くの動物の中から黒猫が魔女の象徴として残ったのでしょうか。

ENrich研究所 Research #004では、中世の宗教文書、16〜17世紀イングランドの魔女裁判と出版物、ハロウィン文化をたどってみたいと思います。

 

記事の中

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黒猫はなぜ魔女の使い魔になった?歴史から分かる結論

黒猫が魔女の使い魔として語られるようになった背景を歴史から考察するENrich研究所の見出し画像。ヨーロッパの古い街並みと黒猫、魔女裁判や民間伝承を思わせる古書・史料を描き、魔女と黒猫の結びつきが形成されていった歴史を表現している。

黒猫と魔女の結びつきは、一つの事件や信仰から生まれたものではありませんでした。

中世に黒猫を悪魔的な儀式と結びつけた文書や近世イングランドで広まった動物の姿をした使い魔の語り、猫の夜行性や身近さ、そして後世の絵画・物語・ハロウィン文化が重なって定着したと考えられます。

歴史を簡単に並べると、次のようになります。

時代史料・文化猫の描かれ方
12〜13世紀異端者を非難する記述黒猫が悪魔的な儀式の対象として語られる
16〜17世紀イングランドの魔女裁判・パンフレット猫や犬、ヒキガエル、鼠などが使い魔として登場する
1566年チェルムズフォードの魔女裁判を伝える出版物白い斑点のある猫「サタン」が登場する
19〜20世紀挿絵、物語、ハロウィン文化魔女と黒猫の組み合わせが分かりやすい記号として広がる
現代映画、アニメ、雑貨、創作作品怖い象徴から、魔女に寄り添う相棒まで意味が広がる

ここから、それぞれの史料を詳しく見ていきます。

 

 

1233年の『Vox in Rama』に登場する黒猫

1233年の教皇文書『Vox in Rama』に登場する黒猫について調べるENrich研究所の見出し画像。中世ヨーロッパの教会や街並みを背景に、黒猫、古い写本、羊皮紙や歴史資料を描き、当時の異端をめぐる記述と黒猫のイメージを表現している。

黒猫が悪魔的な儀式の描写に登場する中世の史料として、教皇グレゴリウス9世が1233年に送った文書『Vox in Rama』があります。

この文書は、当時のドイツで広がっていると報告された異端を非難し、その集団が行ったとされる儀式を記したものです。

儀式の描写には大きな黒猫が現れ、参加者が猫に服従や崇敬を示す場面が含まれています。

ただし、ここに登場する黒猫は、魔女が暮らしの中で飼っていた使い魔として描かれているわけではありません。異端者を悪魔崇拝者として描く告発の記述に登場します。

13世紀の異端者をめぐる表象と、16〜17世紀の魔女裁判で語られた使い魔は、時代も文脈も異なります。両者を同じものとして扱わず、分けて確認する必要があります。

それでも、黒猫を悪魔的な儀式と結びつける表現が13世紀の教皇文書に残っていることは、後世の黒猫と魔女のイメージを考える手がかりの一つになります。

『Vox in Rama』に猫を殺す命令はあった?

インターネット上では、グレゴリウス9世が猫を殺すよう命じ、その結果として猫が減り、鼠が増えて黒死病の流行が悪化したという説が紹介されています。

しかし、『Vox in Rama』の本文には、猫を殺すよう命じる記述は確認できません。

この文書が非難している対象は、悪魔崇拝を行ったとされた異端者たちです。黒猫は、告発された儀式の描写の中に登場します。

また、『Vox in Rama』が送られたのは1233年です。黒死病がヨーロッパで大流行した14世紀半ばとは、100年以上の隔たりがあります。

教皇の文書によってヨーロッパ各地で猫が減少し、それが鼠の増加や黒死病の流行につながったという因果関係を裏付ける十分な史料は、現在のところ確認されていません。

そのため、この話は確定した歴史的事実として扱わず、後世に広まった説の一つとするのが適切でしょう。

 

魔女の使い魔とは何だったのか

魔女の使い魔とは何だったのかを歴史や伝承から探るENrich研究所の見出し画像。黒猫を中心に、猫やフクロウ、カラス、犬、野ウサギなど使い魔として語られた動物の古い図像や文献を描き、魔女と動物の関係がどのように考えられていたのかを表現している。

使い魔は英語で familiar spirit と呼ばれます。

16〜17世紀のイングランドの魔女裁判や関連する出版物では、魔女に力を貸す霊的な存在が動物の姿で現れ、仕事の見返りとして食べ物や血を求めると語られました。

ここで注意したいのは、使い魔の記述が魔女と呼ばれた人々による自由な実践記録とは限らない点です。

裁判での尋問、告発者の証言、記録者や出版者の編集が重なっています。長時間の監視や睡眠を奪う行為によって供述を引き出した事例もありました。

使い魔の記録から分かるのは、超自然的な存在が実在したかどうかよりも、当時の社会が魔女と動物の関係をどう想像し、何を証拠として受け入れたかということです。

また、動物の姿をした使い魔が裁判記録に頻繁に登場する現象は、特に近世イングランドで目立ちます。ヨーロッパ全域で同じ形の信仰が均一に存在していたわけではありません。

 

 

1566年の有名な使い魔は黒猫ではなかった

1566年の魔女裁判に記録された使い魔について調べるENrich研究所の見出し画像。黒猫だけではなく、犬や野ウサギ、鳥、ヒキガエルなどさまざまな動物が使い魔として語られていた歴史を、古い裁判記録や図像とともに表現している。

イングランドの使い魔を語るうえで重要なのが、1566年に出版されたチェルムズフォード周辺の魔女裁判記録です。

そこでは、エリザベス・フランシスが祖母から「サタン」と呼ばれる存在を渡されたと供述したことになっています。

エリザベス・フランシスとは?

エリザベス・フランシスは、16世紀のイングランド東部、エセックスのハットフィールド・ペヴァレルに暮らし、1566年に魔術の容疑で裁かれた女性です。

同年に刊行された裁判記録のパンフレットには、祖母から白い斑点のある猫の姿をした使い魔を譲り受け、「サタン」と呼んでいたと彼女が供述したことが記されています。

ただし、この記述は彼女自身が書き残した記録ではありません。魔女裁判後に刊行されたパンフレットを通して伝わった供述であり、猫の姿をした使い魔が実在したことを証明する資料ではない点には注意が必要です。

エリザベス・フランシスは研究者や伝説上の人物ではなく、魔術の容疑をかけられ、裁判を受けた実在の女性です。表記は資料によって「Francis」「Frauncis」「Francys」などの違いがあります。

サタンは、白い斑点のある猫の姿で現れたと記されました。パンとミルクを与えられ、籠の中で15〜16年ほど飼われていたという、ペットを思わせる描写もあります。

その後、この存在はアグネス・ウォーターハウスへ渡り、ヒキガエルへ姿を変えたとされます。さらに、アグネスの娘ジョーンの証言では、大きな犬の姿でも現れました。

つまり、初期の有名な使い魔の記録には、黒猫という固定された姿が見られません。一つの存在が猫、ヒキガエル、犬へと姿を変える、流動的な存在として語られています。

ただし、これは裁判と出版物の中で作られた供述です。実際に動物が変身したことを示す記録として読むことはできません。当時の人々が、人間と動物の境界や、霊が異なる姿を取る可能性をどのように考えたかを知る史料です。

 

猫だけではない|使い魔とされた動物を比較

魔女の使い魔とされた動物を比較するENrich研究所の見出し画像。黒猫、犬、野ウサギ、フクロウ、カラスなどを古い図像や文献とともに描き、ヨーロッパの魔女伝承や魔女裁判でさまざまな動物が使い魔として語られてきたことを表現している。

ヨーク大学へ提出された使い魔研究の博士論文では、1566〜1693年のイングランドの魔女裁判パンフレットに登場する297体の使い魔が分析されています。

そのうち204体には動物の姿が記され、12体は複数の姿へ変化したと語られていました。よく登場するのは猫、ヒキガエル、犬、鼠です。鳥、鶏、モグラ、ネズミ類なども確認されています。

動物当時の暮らしとの関係使い魔として疑われやすかった背景
家や納屋で鼠を捕る身近な動物夜に動き、人のそばで暮らしながら独立して行動する
ヒキガエル庭や湿った場所で見かける毒や地面の下、変態する生態などと結びつけられた
村や家を行き来する身近な動物従順な伴侶にも、主人を持たない不穏な存在にも見えた
家、納屋、牢獄にも入り込む監視中の牢獄に現れ、使い魔の訪問と解釈されることがあった
人の生活圏の近くにいる空を移動し、離れた場所を行き来できる存在として想像しやすい

ここで浮かぶのは、珍しい幻獣より、村で日常的に見かける動物の方が使い魔として語られやすかったという点です。

普通の猫に話しかけている。犬が家へ出入りしている。牢獄に鼠が現れた。そのような日常の光景が、魔女だという疑いを持たれたあとには、使い魔の証拠として解釈されることがありました。

 

魔女と動物は入れ替わると考えられていた?

魔女が動物へ姿を変えると考えられていた伝承を探るENrich研究所の見出し画像。魔女と黒猫、野ウサギ、オオカミ、フクロウ、カラスを描き、人と動物の姿が入れ替わるというヨーロッパの変身伝承と使い魔の関係を表現している。

魔女と動物の関係には、使い魔とは別に、魔女自身が動物へ姿を変えるという伝承もあります。

地域や時代によって、猫、野兎、狼、鳥など、その姿はさまざまです。動物へ変身した魔女が家へ入り込む、人を監視する、離れた場所へ移動するといった物語が語られました。

一方、1566年の記録で姿を変えたのは、魔女本人より「サタン」と呼ばれた使い魔です。魔女の変身と使い魔の変身は、史料上では分けて確認する必要があります。

どちらの語りにも、人間と動物の境界が現代より曖昧に感じられていた世界観が表れています。

魔女と動物が同じ魂や力を共有し、一方がもう一方の姿を取るという想像が生まれるのも不思議ではなかったのでしょう。これらは複数の変身譚から考えられる一つの解釈です。

 

なぜ黒猫が魔女の代表的な相棒になったのか

黒猫が魔女の代表的な相棒として定着した理由を探るENrich研究所の見出し画像。月夜のヨーロッパの街と黒猫、魔女と猫を描いた古い図像や文献を配置し、魔女裁判や民間伝承、黒猫への信仰やイメージが重なっていく歴史を表現している。

黒猫だけが定番になった理由を、一つの史料で証明することはできません。ここまでの記録から、少なくとも次の要素が重なったと考えられます。

  1. 黒という色が、夜や闇、悪魔の表象と結びつけられたこと
  2. 猫が人の家に近く、夜にも活動する動物だったこと
  3. 従順に見えるときもあれば、人の指示から離れて動く神秘性があったこと
  4. 魔女裁判で猫を含む身近な動物が使い魔として語られたこと
  5. 絵画、文学、広告、ハロウィン装飾が分かりやすい図像として繰り返したこと

アメリカ議会図書館が紹介する1912年の新聞資料にも、ハロウィンを表す図像の中に黒猫が確認できます。20世紀初頭までには、魔女、黒猫、箒、月といった組み合わせが、ハロウィンを示す視覚的な記号として定着していたことが分かります。

現代の映画やアニメでは、黒猫が恐ろしい悪魔の手先として描かれるとは限りません。魔女に助言する存在、寡黙に寄り添う相棒、魔女の一部を映す存在へと役割が広がっています。

 

 

黒猫と魔女に関するよくある質問

黒猫は本当に魔女の使い魔だったのですか?

魔女裁判の記録や関連する出版物には、猫の姿をした使い魔が登場します。ただし、その記録は尋問や告発を経て作られたものです。魔女と呼ばれた人々が実際に黒猫を魔術へ使っていたと証明する資料にはなりません。

使い魔は黒猫だけだったのですか?

猫のほか、ヒキガエル、犬、鼠、鳥などが使い魔として語られました。1566〜1693年のイングランドの出版物を分析した研究でも、多様な動物の姿が確認されています。

『Vox in Rama』は猫を殺すよう命じた文書ですか?

いいえ。本文には、猫を殺すよう命じる記述は確認できません。

『Vox in Rama』は、悪魔崇拝の儀式を行ったとされた異端者を非難する文書です。黒猫はその儀式の描写に登場しますが、猫そのものを処罰や殺害の対象とした内容ではありません。

魔女は猫に変身すると信じられていましたか?

魔女が猫や野兎などへ変身する伝承は各地にあります。また、使い魔の方が複数の動物へ姿を変えるという記録もあります。魔女本人の変身と使い魔の変身は、異なる語りとして確認すると理解しやすくなります。

黒猫は世界中で不吉と考えられているのですか?

地域によって意味は異なります。黒猫を幸運の象徴とする文化や伝承もあり、不吉という見方が世界共通だったわけではありません。

 

黒猫は長い歴史の中で魔女の相棒になった|まとめ

黒猫と魔女の関係の歴史をまとめたENrich研究所の見出し画像。黒猫、魔女と猫を描いた古い文献、古書を配置し、中世から近世の魔女裁判や使い魔の伝承を経て、黒猫が魔女を象徴する相棒として定着していく歴史を表現している。

黒猫と魔女の組み合わせは、一つの出来事から突然生まれたものではありません。

13世紀の異端者をめぐる文書には、悪魔的な儀式の象徴として黒猫が登場しました。16〜17世紀のイングランドでは、猫や犬、ヒキガエル、鼠など、身近な動物が使い魔として語られました。

1566年の有名な使い魔「サタン」は白い斑点のある猫で、のちにヒキガエルや大きな犬の姿を取ったとされています。この記録だけを見ても、使い魔の姿が最初から黒猫に固定されていたわけではないことが分かります。

その後、物語や絵画、ハロウィン文化が魔女と黒猫を繰り返し描き、現在の定番イメージへつながりました。

歴史の中では疑いの証拠にされた動物が、現代では魔女に寄り添い、そっと支える相棒として愛されています。

黒猫の姿が変わったというより、黒猫を見る人間の物語が、時代とともに変わってきたのかもしれません。

 


参考資料・出典

  1. Gabriela Garcia Leddy, “One may be an Imp as well as another”: The Familiar Spirit in Early Modern English Witchcraft Pamphlets, PhD thesis, University of York, 2016.
  2. John Phillips, The Examination and Confession of certaine Wytches at Chensforde, London, 1566.
  3. Carl Rodenberg ed., Epistolae saeculi XIII e regestis pontificum Romanorum selectae, vol. 1, MGH, 1883, pp. 432–435.
  4. Alan Charles Kors and Edward Peters eds., Witchcraft in Europe, 400–1700: A Documentary History, University of Pennsylvania Press, 2000.
  5. Emma Wilby, Cunning Folk and Familiar Spirits, Sussex Academic Press, 2005.
  6. Library of Congress, The Origins of Halloween Traditions, 2021.

※魔女裁判の記録には、尋問、告発、出版者による編集が含まれます。本記事では、記録された内容と実際に行われたことを同一視せず、当時の社会が魔女と動物をどのように捉えたかを示す史料として扱いました。

 

 

 

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